支那事変(移植)
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grothendieck57 2023年09月17日(日) 16:55:35履歴
| 支那事変 | ||
|---|---|---|
| 年月日：1937年7月7日(盧溝橋事件の発生) 〜1943年11月27日(成都停戦協定の成立) | ||
| 結果：大日本帝国の勝利 | ||
| 交戦勢力 | ||
 大日本帝国 満洲帝国 蒙古聯合自治政府 汪兆銘政権 雲南軍政府 広西軍政府 | 蒋介石政権 中華人民共和国 アメリカ合衆国(支援) ソビエト連邦(支援) イギリス連邦(支援) フランス第三共和政(支援) | |
支那事変または十二年戦争(繁体中文：十二年戰爭)とは、1937年から1949年にかけて、大日本帝国・満洲帝国・中華民国(汪兆銘政権)・雲南軍(滇軍)・広西軍(桂軍)と中華民国(蒋介石政権)・中華人民共和国(毛沢東政権)が中国大陸の支配権をめぐって争った戦争。広大な中国大陸のすべてが戦場となり、戦争は泥沼化し、両軍合わせて500万人以上の損害を出した。
前史
華北分離工作
満洲事変によって満洲国を建国し、熱河作戦によって満洲地域のすべてを回収した関東軍であったが、成立したばかりの満洲地域は未だ不安定であった。特に満洲に隣接する北支五省(河北省・河南省・山東省・察哈爾省・綏遠省)などにおいては、満洲から逃れてきた中国人民族主義者による抗日・排日運動が多発し、在留邦人が多大な被害を被っていた。そこで関東軍は、内蒙古自治運動の指導者であった徳王(デムチュクドンロブ)と接触して東部内蒙古(察哈爾省・綏遠省)を分離するとともに、世論の扇動によって河北省・山東省・河南省に親日的な自治政府を設立し、満洲国との緩衝地帯にしようとしていた。
この動きによって、塘沽停戦協定で定められていた中立・非武装地帯に冀東防共自治政府(首班：殷汝耕)が成立した。また、北支五省を統括する自治政府として冀察政務委員会(首班：宋哲元)が、南京政府に直隷する形で成立した。このうち、冀察政務委員会は北支自治運動を抑えようと蒋介石政権側が先手を打ち、北支の治安維持のために設けたものである。これによって蒋介石政権は北支自治運動の封じ込めに成功したが、冀東政府と内蒙古政府の成立によって、中国民衆の反日感情は大いに高まった。
「安内攘外」と「一致抗戦」
蒋介石政権は、満洲事変や北支自治運動を目の前にしてもなお、「安内攘外」の方針を堅持していた。安内攘外とは、まず国内に跋扈する軍閥や共産党勢力(当時は「赤匪」「共匪」と呼んだ)を掃討して国内を安んじて(安内)から、日本やロシア、フランス、イギリスなどから領土や租界や権益を回収する(攘外)ことを指す。この方針によって、蒋介石は対日戦争をおこなう前に、延安の根拠地にある中国共産党軍を包囲していた。その包囲作戦に当たっていたのが、日本軍に父親を殺され、みずからの率いる東北辺防軍とともに満洲を追われた張学良であった。
張学良は中国国内に広がる抗日の風潮を感じ取り、1936年5月に周恩来と会談する。この結果として五・五通電と呼ばれる声明を発し、「停戰議和一致抗日」を訴えた。同年12月には最前線の西安に視察に訪れた蒋介石を監禁して国共合作と抗日を認めるように迫り、1937年初頭には国共合作が事実上成立した(西安事件)。これを契機として、蒋介石は本格的に対日戦争に向けて準備をするために、1937年2月の中央執行委員会全体会議(全会)で採択した「共産党との絶縁」という項目を撤回し、共産党根拠地を中華民国の一自治区、陝甘寧辺区として承認するとともに、上海共同租界周辺の非武装地帯における陣地構築を開始した。これは1932年の第一次上海事変の結果として定められた上海停戦協定に違反するものであったが、蒋介石はドイツ軍事顧問であるファルケンハウゼンの進言に従って上海周辺における戦争準備を整えていった。
日中全面戦争へ
盧溝橋事件と北支事変
盧溝橋は北京市(当時は首都が南京にあったため、北平と呼んだ)郊外の宛平県城近くにある橋で、古くは燕京八景に列せられた歴史の長い橋である。「東方見聞録」で西洋に紹介されたため、マルコ・ポーロ橋とも呼ぶ。この盧溝橋近くにある豊台に駐屯していた帝国陸軍・支那駐屯歩兵第一聯隊第三大隊と、国民革命軍・歩兵第二一九團第三營が衝突したのが、盧溝橋事件である。
盧溝橋事件は一旦は「第二十九軍の謝罪と撤退」という条件によって収束したものの、すぐに衝突が再燃した。この北支情勢の不安定を鑑み、近衛内閣は内地師団の派遣こそしないものの、関東軍の二個独立混成旅団(1MBs、11MBs)及び朝鮮軍の1個師団(20D)を派兵することを閣議決定した。更に「北支派兵に関する政府声明」を発表し、今次の派兵に関連する軍事衝突を北支事変と呼称することを明らかにした。これに対し蒋介石も7月17日、廬山にて徹底抗戦の声明を発表する。中華民国の中央指導部は対日戦争準備を布告し、北京・天津近郊で日本軍に攻撃を加えた。
これに対して近衛内閣は事態の重大性を認識して内地3個師団(5D、6D、10D)の動員と派兵を決定。広島、熊本、姫路の各師管司令部は戦時動員の準備に入った。第5師団は関東軍に、第6・第10師団は支那駐屯軍にそれぞれ配属され、関東軍と支那駐屯軍は河北・察哈爾方面に国民革命軍を総攻撃した。戦火は瞬く間に北支一帯に広がり、もはや現地協定でどうにかなる規模から外れつつあった。
(ここら辺は史実を参照)
事変前半期の治安戦
独立混成旅団の戡定作戦
北支那方面軍が緒戦に攻略し、帝国陸軍が軍政を布いたのちに汪兆銘政権による統治に移行した北支(特に長城以南の三省)においては、共産党勢力による遊撃戦による支配地域の拡大や補給線たる鉄道線の破壊、民心の掌握などが大きな課題となっていた。共産党は延安に首府を置く陝甘寧辺区を根拠地として日本側勢力圏に攻撃を仕掛けてきており、それ故に共産党勢力(共匪)の跋扈は陝甘寧辺区に隣接する山西省や、山西省に建設された根拠地からの侵入が容易な北支三省において特に課題となっていた。
主に治安維持を目的とした部隊の編成は、開戦前より対支作戦の一環として参謀本部の一部によって研究がなされていた。この治安専門部隊は1938年2月に、独立混成第二〜第五旅団として編成される。戦火が四方八方に飛び、元々の根拠地である冀東から遥か700kmも離れた徐州が最前線になり、後方補給がゲリラによって脅かされ始めた頃である。四旅団はそれぞれ察哈爾省、山西省、河北省、山東省を作戦区域とし、主に鉄道線の警備を担当した。しかし戦線がさらに広がり、共産党軍の浸透も強まってゲリラ戦がますます激化すると、一省につき一旅団という甘い編制では立ち行かなくなってきた。1939年には令甲第一号、第二十六号、第四十号と三次にわたって「独混」が編成され、合計18個旅団が北支から中支沿岸部の一帯に展開した。翌年にも2個旅団が編成され、合計20個旅団となった。
昭和十五年末における独立混成旅団の一覧
和平建国軍の成立
1940年3月、汪兆銘政権の下で運用される国民政府の軍として「和平建国軍」が成立した。この軍は主に戦線とは完全に分離された省における治安作戦を担当するものとして期待されたものである。戦線と完全に分離された省とはすなわち河北(冀)・山東(魯)・江蘇(蘇)・安徽(皖)と上海市域(滬)の四省一市であり、これらの警備に協力するために当初2個師が軍事委員会直轄兵団として編成された。しかし和平建国軍の練度や信頼性に関する問題から、当面は中支方面への投入に限られることとなった。
和平建国軍戦闘序列(1940年末)
「…槪シテ積極的ナル對日協力論者ハ約二割、民族意識旺盛ニシテ反日ナルモノ四割、雙方ニ對シテ無關心ナルモノ四割ナリ。一般ノ知識階級ハ知日親日的ニシテ協力的ナルモ學生及親米英知識階級ハ依然其反日的傾向ヲ改メサルナリ。今次戰爭ノ歸結ニ就テハ大部ノ者、目下皇軍ノ優勢ナルモ殊長期戰ニ至リテハ支那軍ノ優勢ニ終リ、「ソ」聯邦ノ參戰ニヨリテ帝國ハ支那ヨリ撤兵セサルヲ得サル局面ニ立至ルモノト觀念ス。」対日協力論者が水増しして2割と非常に少ない状況下において、和平建国軍への志願兵は皆無といってよかった。1941年6月、第一次長沙作戦を前に支那派遣軍は中国人捕虜の中から志願兵を募り、混成第三旅を編成して独立混成第十四旅団(江西省九江)と警備を交代させ、督戦のための一個大隊を残して独立混成第十四旅団を前線へ差し向けた。第一次長沙作戦の最中、この方面にも国民革命軍第九戦区軍が来寇したが、混成第三旅はその火力と統率力を最大限に発揮して撃退した。この結果を受けて、支那派遣軍は中国人捕虜から更に部隊を編成するように汪兆銘政権に指示した。中国人捕虜部隊は41年末時点で6個師・4個混成旅の計8万8000人に達し、治安維持任務に就いた。
持久戦略の放棄
 支那事変経過要図。 薄桃：40年末までの占領地 薄茶：42年初頭までの占領地 |
第2軍の編成と第一次長沙作戦
1941年9月から開始された加号作戦(第一次長沙作戦)により、中支那方面の主戦力であり支那派遣軍直轄兵団である第11軍は漢口を出撃して湖南省長沙への進撃を開始した。4個師団(第3、第4、第6、第40師団)と4個支隊(第13師団の一部、第33師団の一部、独立混成第14旅団の一部)を主戦力として、九五式軽戦車を装備した戦車第13聯隊、四年式十五糎榴弾砲を装備した野戦重砲兵第14聯隊が協力する編制であった。第11軍は9月末に長沙、10月初頭に株洲を占領し、同地域に位置した国民革命軍第9戦区軍の大半を撃滅する戦果を挙げた。しかし第11軍は僅か4日で長沙を放棄し、反転退却を開始した。残された第9戦区軍は追撃を開始したが、砲艦に支援された日本軍の撤退を前には効果は希薄であった。
その一方で、第11軍が出撃してもぬけの殻となった湖北省宜昌方面においては、第6戦区軍15個師の大攻勢が押し寄せていた。同地では残留した第13師団及び第39師団が防衛に努めていたが、絶望的な戦力差があり、苦戦を強いられていた。しかし10月4日、第6戦区軍の戦線右翼が突如として大量の日本軍に破られ、第6戦区軍は突破を許してしまう。この日本軍は大量の航空支援とともに僅か1週間で恩施を占領し、その後5日で長江沿岸の万州を占領した。これにより退路を断たれた第6戦区軍は10月21日に投降し、大量の装備が鹵獲された。
この突如として現れた日本軍は、8月25日に編成が下令された第2軍であった。第2軍は仏印から復員してきた近衛師団と第5師団、第48師団の自動車化された3個師団と3個戦車師団、そして多数の野戦重砲兵部隊から成る精鋭兵団で、9月初頭に上海に上陸したばかりであった。帝国陸軍首脳部は6月22日のドイツ対ソ宣戦を鑑み、極東ソ連軍の動きが低調になったことから新編予定の戦車師団の配属先を関東軍から支那派遣軍に急遽変更したのである。
第2軍が占領した万州は重慶への入り口であり、蒋介石は地上部隊がほぼ出払っている中でこの突如として現れた機甲軍に狼狽した。10月30日、国民政府首脳部は成都への撤退を開始。11月初旬には第8戦区と第10戦区を分割して新たに四川省を管轄範囲とする第11戦区を設けた。同時期に第2軍は反転して万州を放棄。宜昌に帰還した。この大敗と蒋介石の重慶放棄は、元軍閥の将軍たちをして蒋介石に対する信頼を失墜させるに足るものであった。12月、汪兆銘により和平建国軍を治安維持のみならず、前線に投入する用意があるとする声明が発表されると、この方向性はますます顕著となった。
軍閥への工作と湖広の平定
中華民国はそもそも一枚岩の国家ではなく、国民党政権を中心とした共産党勢力に対抗する軍閥の集合体という側面を持っていた。日本軍はこのうち、元広西軍閥の李宗仁や白崇禧、元雲南軍閥の竜雲、元山西軍閥の閻錫山などと接触し、寝返りを迫っていた。1942年1月に海南島を除く両広と雲南、山西が中華民国汪兆銘政権とは別の政府主体(=独立国)として運営されることに汪兆銘が合意すると、李宗仁は麾下の第5戦区軍を、白崇禧はクーデターを起こして第4戦区軍を率いて「和平建国宣言」を発し、広西省・広東省の独立を宣言した。雲南は蒋介石の根拠地成都に近いことから独立宣言は見合わせ、所要なるときにその旨を発表することとし、現在は秘密裡の内通のみにとどめることとした。閻錫山は北支派遣軍第1軍と秘密裡に停戦協定を交わし、無駄な犠牲を避けるために今後一切山西軍(第2戦区軍)と交戦をしないこと、閻錫山を山西省の実質的な指導者と認めること、協同して剿共(共産党軍の討伐)に当たることが取り決められた。
しかし第4・第5戦区両軍はその内部において和平か抗日かで意見が割れており、内紛が起こった(西南事変)。これに対し、日本軍は親日側を支援するため、主力軍の出撃を決定する。1942年2月24日、北支那方面軍と第11軍はコ号作戦を開始し、寝返った第5戦区軍の一部を支援するために第1戦区軍と第5戦区軍の残余を攻撃した。北支那方面軍からは第12軍第16師団と第32師団が、第11軍からは第一次長沙作戦の損害から回復した第3師団、第4師団と第33師団がこの攻撃に参加し、10個師近くを包囲し、残りを敗走させた。第5戦区軍のうち寝返った12個師と1個騎兵師は3月13日に信陽北方の甘岸鎮で第11軍司令官・阿南惟幾と同盟を取り交わした(淮河の盟)。コ号作戦によって日本は同盟軍を増やすとともに、京漢線沿線から敵正規軍を一掃し、満洲と北支から漢口に至るまでの陸路が確保された。
コ号作戦をおこなっている最中、寝返った第4戦区軍の一部は桂林に籠って激しい抵抗を続けていた。このため3月初旬に南支那派遣軍はト一号作戦を発動し、第4戦区軍の側方支援と雲南への連絡ルート確保のために第18師団、第104師団の2個師団を以て南寧・龍州から百色方面に侵攻を開始した。この作戦はほぼ日本軍の完勝によって終了したが、当初の目的であった第4戦区軍の側方支援は果たせなかった。このため、第2軍と、南支那派遣軍を改編した南支那方面軍は当初の予定通りのト二号作戦発動を決定し、4月1日に北から第2軍が、南から第23軍が湖南・広西地方に進撃を開始した。
第2軍の進撃は河川の意図的な決壊や田畑の浸水などに妨害されたものの、麾下第5師団には新たに配属された渡河工兵部隊がおり、順調に進撃した。第2軍は僅か1週間で衛陽まで進出し、後続してくる第11軍の一部に警備を任せて桂林まで前進した。南支那方面軍麾下第21軍も柳州まで進出し、広西省の第4戦区軍は完璧に日本側のものとなった。4月末からは第二期作戦として反転した第2軍が粤漢線に沿って広州まで南下し、粤漢線打通を試みたが、途中で支那派遣軍総司令官名義の撤退命令を受けて急遽反転、漢口に帰還した。粤漢線打通は第22軍がその命を引き継ぎ、5月25日に所定の目標を達成した。コ号・ト号両作戦に内地・満洲・北支から転用された部隊は2個師団と5個旅団、新たに動員された部隊は5個師団と7個旅団であり、帝国陸軍の動員兵力はその限界に達しつつあった。
日米の関係悪化
支那事変勃発以降、日本の欧米諸国との関係、特に日米関係は悪化の一途をたどっていた。開戦後ほどなくして発生したパナイ号事件や、ルーズベルト大統領による「隔離演説」などがその象徴たる出来事である。1939年9月にドイツがポーランドを攻撃し、第二次世界大戦がはじまると、防共協定に参加していた日本は明確に敵性国家としての扱いを受けることとなった。緒戦におけるドイツの快勝を見て軍事同盟の締結を試みる動きもあったものの、支那派遣軍に属していた将校たちが人事異動で本国に帰還すると、陸軍内部に反対の声が大きくなり始めた。ドイツは国防軍が主に重慶政府を援助する動きを見せており、「防共には有用なるも対支政策の上に日独同盟は寧ろ害をなすものなり」という意見が主流となった。
それでも1940年には日本はドイツ占領下のフランスで成立したヴィシー政府を承認し、援蒋ルート遮断のため1940年9月には北部仏印進駐を実行するなど反米・対独協調の外交を進めた。これによりアメリカは日本に屑鉄禁輸などの経済制裁を発動し、「武力による現状の変更を認めない」として日本の行動を厳しく非難した。この頃、重慶に派遣されていたドイツ軍事顧問団がソ連経由で帰国し、再度日独同盟の気運が高まったものの、1941年6月のドイツ対ソ宣戦でこの試みはまたも破綻した。「事変解決」を最優先の国策として掲げる日本に、ドイツと組んでソ連を相手取る余裕はなかった。
1941年10月には汪兆銘が東京を訪問し、日本人租界の返還という約束を取り付けた。これに対し重慶政府を支援しているアメリカは、中国市場というフロンティアへの足掛かりである租界を手放すことに踏み切れず、「日本の租界返還は列強諸国の国益を侵害するものである」と非難声明を出すにとどまった。東條首相は「東亜新秩序に欧米帝国主義による植民地は存在しない」と応酬し、また治安維持の名目で上海共同租界に進駐したため、これを植民地解放の布石と見た米英は1942年2月に銅や天然ゴム、ボーキサイトなどの禁輸と「軍事目的での利用に相当する」とされる石油の輸出制限を断行した。これを受けて日本はタイなどからの天然ゴム輸入を増加させ、また4月にはオランダ領東インド政府と石油の輸入に関する交渉(日蘭会商)をおこなって石油200万トンの調達で合意するなど軍需資源調達のために奔走した。
しかし、6月には米英の圧力によってオランダ領東インドは石油輸出の方針を撤回し、日本は事変解決のための石油が絶対的に不足する事態となった。このため、7月末には資源獲得の目的をもって南部仏印進駐を断行する。これは米英の更なる経済制裁を招き、8月に米英は対日石油全面禁輸を発表した。
更なる戦線の拡大
汪兆銘の民心掌握
1941年10月、南京国民政府のトップである汪兆銘は南京を離れ東京を訪問した。この訪問は汪自身の希望と大本営陸軍部の意向によるものであり、対日政策としては新しく成立した支那国民政府の親日ぶりをアピールすること、対中政策としては訪問に伴う外交成果によって中国民衆の心を親南京・親日にすることが目的であった。訪問では汪は南京国民政府の国家元首として天皇に拝謁し、その日の夕刊のトップは昭和天皇と並んで立つ汪の写真が飾った。多くの日本国民にとって、この写真は6年前の満洲皇帝溥儀の来日を想起させるものであり、新たな「友邦」の誕生を象徴するものであった。天皇への拝謁後は参謀総長の杉山元と、その後は総理大臣に就任したばかりの東條英機と会談し、日本人租界の行政権返還、支那派遣軍による軍票の発行停止と歩兵装備や山砲、戦車、砲艦を中心とした約3億円の武器供与に関して合意した。この中でも特に租界の返還は大きな外交成果であった。中国民衆にとって租界とは中国の海外による蚕食の象徴的存在であり、これを撤廃することは長年の悲願であった。
汪は続いて政府専用機で東京から奉天に飛び、奉天から満鉄(南満洲鉄道)の特急「あじあ」に乗って満洲帝国の帝都新京を訪問した。新京では満洲皇帝溥儀、満洲国務院総理の張景恵と会談し、11月3日に中華連邦宣言を発した。内容は、今は亡き孫文の唱えた「五族協和」を真に実現するために、漢・満・蒙・回・蔵の五族に加えて、望むならば他の民族の独立も歓迎し、大清帝国の領域に暮らすすべての民族を糾合して「中華連邦」を構成することを今次戦争の目的とする、というものであった。この宣言は重慶政府への非難を含んでおり、盧溝橋事件以降日本の保護国という立場にありながら支那事変に対して静謐を保ってきた満洲帝国が、事実上重慶政府に宣戦布告をおこなった(正式な手続きではない)ことを意味し、またこれは日本の了承を得ないものであり、満洲帝国がその建国以来初めて日本から独立してとった行動でもあった。溥儀はかつての住処であった紫禁城区域に対して行政権を行使(事実上の割譲)することと引き換えに治安維持目的での北支派兵を汪に約束し、満洲の支那事変参戦が決定した。関東軍司令部は寝耳に水でこの話を聞き、しかし日本側に利のある話であるため事後承認をせざるを得なかった(満洲軍はこれ以前も北支派兵を行っていたが、「山東自治聯軍」のような義勇軍形式での派兵であり、公な派兵は初である)。
汪の一連の外交成果により、日本軍支配地域における汪の支持率は大きく上昇した。和平建国軍への志願者は前年度を大きく超えて殺到し、北支における八路軍の活動は極めて低調となった。軍票の発行停止によって経済状況も改善した。しかし、中華連邦宣言は中華圏の統合を明確に意識したものであるとともに、汪兆銘が目指した「重慶政府との再統合による和平」という路線の放棄をも意味するものであった。1941年末、汪は国旗である青天白日満地紅旗の上部についていた「和平 反共 建国」の三角旗を取り除くように指示した。この出来事は、汪の明確な和平路線放棄を象徴するものであるといえる。
第11戦区軍の雲南侵攻
蒋介石はかねてから「雲南モンロー主義」を堅持する竜雲に日本軍との内通に関する疑いの目を向けており、特に42年初頭以降彼の率いる第30軍団が「戦力の補充」を理由に昆明に籠って出ないこと、隣接する広西省の反乱とそれに続く日本軍の広西省西部侵攻(ト一号作戦)にも何等の反応を示さなかったことから、疑いの目はますます確実なものとなり、1942年4月に蒋介石はかつて重慶を脅かした第2軍が広西方面で活動中であるという情報を得たことで、麾下の第11戦区軍を率いて雲南省昭通へ侵攻した。
この報を聞いた竜雲はみずからへの内通の疑いが確実なものとなって雲南省が存立の危機に脅かされているとして、この旨を日本軍へ通報。支那派遣軍はト二号作戦を終えた第2軍に対し、急遽の反転を指令するとともに、予定されていた第14軍の編成を早めて戦闘序列を発令した。第14軍の主戦力は第2軍とその役目を交代した野戦軍・第11軍から引き抜いた現役兵団であり、先の作戦で打通した粤漢線によって6月3日に広州に集結、8日に仏印ハイフォン港に上陸して滇越鉄道によって昆明に入った。
軍閥時代より「雲南の一個師は北洋の十個師に匹敵する」といわれ、精強を誇った雲南軍であったが、総勢13個師を擁する第11戦区軍に対して緒戦の昭通戦役に敗北し、雲南省北東部の突出部から撤退して首府昆明の守りを固めていた。日本軍の到着によって後背を固めた雲南軍は昭通へ侵攻。6月下旬には昭通を奪回し第11戦区軍を退却に追い込んだ。7月には戦闘序列発令とともに動員された第65旅団が昆明に到着し、第14軍主力は昭通に進出。重慶・成都まであと300kmに近づき、湖北に布陣した第2軍とともに蒋介石を追い詰めた。
日米再保障条約
過去最悪となった日米関係を改善するため、東條首相は野村吉三郎駐米大使に対米関係の改善を目的とした特命を発した。8月から関係改善のための日米交渉が開始され、日本側は事変解決を、アメリカ側は対独協力関係の一切を破棄することと重慶政府の承認を求めた。アメリカの対中政策の根幹は中国を新たな「フロンティア」とすることであり、重慶政府を支援していたのはアメリカの広範な経済進出を容認するからであった。
しかしここに2つの要素が絡み、アメリカはその方針を転換することとなる。まず第一に、ロシアの奥地に向けて快調に進撃していたドイツ国防軍A軍集団・B軍集団がコーカサスとスターリングラードで大敗北を喫し、ソ連が全戦線にわたって反撃の狼煙を上げたことである。ナチス・ドイツを打倒するために英ソに軍事支援を行っていたアメリカであったが、ルーズベルト大統領は旧大陸不介入のモンロー主義を堅持して対独宣戦をおこなっていなかった。もっと差し迫った理由として、アメリカに実害が及んでいないのにもかかわらず第二次世界大戦に参戦すれば、次の大統領選挙で敗北することはほぼ間違いないということがあった。ともかく、このまま余力のないイギリスが防衛に終始すればソ連の進撃によって欧州大陸全土が共産主義者の手に落ち、大戦終結後の欧州大陸は反米・反資本主義の牙城となってしまうことが危惧されていた。
次に、泥沼化していた支那事変自体に、雲南と両広の寝返りという刺激が加えられ、日本軍が蒋介石の根拠地・四川省成都を指呼の間に臨むまでに進撃をしていたことが挙げられる。支那派遣軍は戦線の整理と後方部隊の配置のために一旦進撃を停止していたものの、連日成都に加えられる大爆撃は中国民衆の心を少なからず揺らがせていた。また、イギリス領インド帝国からの援蒋ルートであり、援蔣ルートの最後の一本でもある「ビルマ公路」が、日本軍の昆明占領によって寸断されてしまったことも影響した。ビルマ公路寸断によって米英は、重慶政府に対し補給をする術を空輸以外に失った。英印アッサム州からヒマラヤ山脈を越えて成都へ至るこの空輸ルートは「ハンプ越え」と呼ばれ、その高い標高により事故が多発していた。そのうえ、空輸であるから陸輸に比べ補給能力は著しく劣った。このような状況の中で、アメリカがこれ以上日本と対立し、果ては対日戦争に至るのは得策ではない判断であることを、コーデル・ハル国務長官は認識した。日本は満洲と内蒙古を通じてソ連と直接その勢力圏を接し、来る大戦後の世界においてソ連に大きな圧力をかけられる位置にあることは間違いなかった。
会談を重ねるうちにアメリカの態度は軟化し、最初は国交正常化と満洲国と汪兆銘政権の承認と引き換えに満洲市場への参入を求め、満洲市場への参入に日本が難色を示すと南支方面への影響力保持を条件として提示した。これは本国を追われて欧州戦線において大した貢献を果たさないにもかかわらず、列強の円卓会議に大きな存在感を持つフランスをアメリカが疎んだことが影響している。日本が両広を独立させる予定であったこともあり、両広のうち広東省におけるアメリカの経済的優越を認めることが決まり、1943年1月に日米間の経済活動正常化、日米通商航海条約の再締結、両国の紛争に関する中立などの内容を含む日米再保障条約が締結された。
奥地への進撃
国民革命軍の概況
第14軍が昭通に進出した1942年7月、国民革命軍は「抗日戦争」を開始してから3度目となる戦闘序列の改訂を行った。蒋介石が直接掌握するのは河南・湖北の第1・第3戦区、山西・陝西・綏遠の第2戦区、馬軍閥の第8戦区、湖南・貴州の第9戦区、そして四川の第11戦区の6個戦区に過ぎず、他に北支で活動する八路軍と、日本軍の巨大な包囲下に置かれた贛閩浙戦区が存在した。総兵力は全盛期の300個師近くから150個歩兵師、47個歩兵旅、5個騎兵師、10個騎兵旅にまで減り、人的資源の底なし沼と恐れられた国民革命軍もその勢いに衰えを見せ始めていた。しかもその5分の1は親日派の閻錫山が率いる山西軍で、実質的に戦力として機能していなかった。
国民革命軍戦闘序列(S17.7)
キ号作戦
支那派遣軍は重慶政府を降伏させるための積極的な攻勢作戦として、蒋介石のかつての根拠地である重慶を占領することを計画していた。攻撃には第2軍と第14軍が主に参加することとされたが、42年8月には対日石油輸出制限に続く石油全面禁輸がおこなわれ、機甲軍である第2軍の攻勢作戦が絶望的であった。そこで、支那派遣軍は抗日勢力の二大巨頭であった蒋介石と毛沢東を分断させるために、蔣介石の根拠地成都と毛沢東の根拠地延安を結ぶ交通の要衝である西安を攻略することを計画した。補助作戦としてかねてより雲南軍が併合を希望していた四川省涼山への侵攻を第14軍に指示し、作戦名は「キ号作戦」として作戦が開始された。
作戦は8月28日に開始され、隴海線沿いを第35師団が、蒲州から黄河を越えて第36師団が西進し、そして三門峡から第16師団が南下した。後方支援に当たるのは独立混成第23旅団である。事前の協定に基づき、第2戦区軍は日本軍を見たら撤退し、中には司令部同士で宴会をした兵団もあった。第35師団は9月5日に臨渭を、第36師団は8日に蒲城を占領したが、朱徳率いる八路軍の精鋭兵団に阻まれ、もともと二線級の治安部隊である両師団の進撃は遅滞した。そのとき、9日に無血で商洛を占領していた第16師団が秦嶺を越えて南から西安へ進撃し、23日に西安に入城してしまった。八路軍は日本軍が包囲機動に移る前に慌てて撤退したため、日本軍の損害の方が多い結果となったが、日本軍は西安攻略という戦略目的を達成した。
一方で、昭通に駐屯する第14軍ではなく麗江から雲南軍のみで仕掛けた涼山攻略戦は、首都侵攻の危険を察知して第11戦区軍を丸ごと涼山に差し向けた蒋介石によって防がれていた。雲南軍は2000以上の死傷者を出して9月15日に麗江へ撤退したが、結果としてこれは当初の意図通りの牽制となり、蒋介石は予備軍を閻錫山と八路軍に回すことができなくなった。涼山侵攻は第14軍が昭通から虎の子の戦車第13聯隊を引き抜き、これと第18師団の一部(川口支隊)を雲南軍と協同させて改めておこなわれ、10月15日に涼山占領に成功した。
八路軍の攻勢
蒋介石政権の降伏
北支方面戡定
1943年1月、日米再保障条約締結によって石油の供給に目途がついた支那派遣軍は、重慶侵攻作戦(作戦名「五号作戦」)を実行に移すことを決意した。既に蔣介石政権にまともな継戦能力は残されておらず、重慶・成都侵攻が奥地に引きこもる蒋介石への最後の一撃となるはずであった。作戦は長江渇水期に行うことが計画されていたが、秋冬に渇水期を迎える長江は雪解け水による増水期を迎えようとしており、即座の作戦実施は不可能であると判断された。
そこで、支那派遣軍は後顧の憂いを断つ目的を以て北支那方面軍に、その勢力を強めていた共産党軍(八路軍)の掃討を命じた。北支那方面軍は1941年6月の中原会戦でこの方面の国民革命軍をあらかた撃破し、更にキ号作戦で占領地を広げていたため、この方面の占領施策が適切でなかったこともあって共産党軍に大いに悩まされていた。北支那方面軍は隷下に騎兵2個旅団、戦車1個旅団と和平建国軍や満洲国軍の増援を受け、まず河北・河南・山東の三省で戡定作戦を開始した。この作戦は百二号作戦と呼称され、主に京漢線と津浦線に挟まれた鉄道空白地帯(衡水、聊城、城濮など)に根拠地を建設していた共産党軍に大きな打撃を与えた。
続いて百三号作戦として山西・太行山脈方面の山岳地帯に侵攻し、この方面の共産党軍を撃破した。併せて宣伝作戦なども強化され、汪兆銘政権の支持率を上げる努力がなされた。
五号作戦の実施
8月24日、「五号作戦」実施発令。第2軍は宜昌を、第14軍は昭通をそれぞれ出撃し、満洲から臨時動員された軽爆撃機隊と襲撃機隊が地上支援に出撃を繰り返した。山深い地形のために第2軍の進撃は遅滞したが、9月10日には第一次長沙作戦の折に一度占領した万州をふたたび占領した。18日には忠県を、26日には涪陵を占領。10月3日には第2軍単独で重慶を包囲し、市街地に立て籠もる国民革命軍第16軍に対し降伏勧告を出した。
同じころ、第14軍主力は瀘州に入城し、長江を下って重慶に向けて進撃していた。第14軍の到着を待って21日、第2軍・第14軍歩兵部隊が重慶市街に突入。血で血を洗うような市街戦の末に28日、重慶市戡定の宣言を出した。休む間もなく部隊を再編して2つの軍は成都に向けて進撃を開始。歩兵部隊である第14軍の一部は第2軍戦車師団に跨乗(タンク・デサント)しての進撃であった。11月5日、四川方面軍戦闘序列が発令され、二軍はこの指揮下に入った。五号作戦は時間との勝負であった。攻略に手間取り、他の戦区軍が西安を迂回して駆けつけては戦略が崩壊する。
蒋介石はチベットの首都ラサへの亡命を打診したがチベットは事実上これを拒否し、馬軍閥の根拠地である蘭州への逃亡を航空機で行うことを計画していた。11月22日夕刻、成都の飛行場から自家用機で移動しようとしていたまさにそのとき、突如として現れた日本軍部隊にその身柄を拘束された。五号作戦実施に先立って支那派遣軍直轄とされた第1挺進集団の空挺兵が成都市街へ降下し、政府関係者を片っ端から尋問して蒋介石の居場所を吐かせたのである。第1挺進集団に遅れること6時間、11月23日未明に四川方面軍主力は成都へ入城し、第2軍司令官兼四川方面軍司令官の山下奉文が停戦交渉を開始した。11月27日、成都停戦協定が成立し、蒋介石政権軍事委員会の統制下にある国民革命軍のすべてが帝国陸軍に対する戦闘行為を停止した。
「剿共」作戦の再開
成都協約
停戦協定成立と同時に東條英機首相をはじめとした政府首脳が成都に飛び、12月4日に正式な講和条約としての成都協約を調印した。蒋介石政権はもはや政府主体として承認されないため、「協約」という形になった。内容は以下の通りである。
- 蒋介石政権は汪兆銘政権に名目上合流する。ただし事実上の降伏とし、蔣介石政権の政府機構は解体される。
- 国民革命軍は武装解除され、将兵は捕虜となる。ただし、剿共作戦へ志願する場合はその限りでない。
- 国民革命軍の将軍は身柄を拘束され、捕虜としての待遇を受ける。ただし、剿共作戦に協力する場合はその限りでない。
農村の反共化
国民革命軍の一部に編入されたときの名称から「八路軍」と呼ばれていた共産党軍は、支那事変が始まった1937年から統治体制が改善される1942年ごろまでの約5年間で、無計画な徴発や軍票の乱発、港湾や炭鉱などにおける大量の苦力の徴用など日本軍の不適切な占領政策によって農村部を中心として勢力を拡大していた。これには汪兆銘が寧漢分裂の時代に共産党と共闘した経験から、共産党の勢力拡大戦略を都市を基盤とするものであるという固定観念に基づいて考えており、農村部に対する反共政策の徹底が不十分であったことも影響していた。重慶政府の降伏が時間の問題となり、共産党軍の戦力が無視できないほどに高まって来ていた1942年になって、ようやく支那派遣軍と汪兆銘は効果的な農村宣撫政策の実施を指示した。
南京政府はそれまでの地方官吏に任せた収税法を改善して中央集権化した税制の整備を進めるとともに、伝統的な保甲法を復活させ、郷村ごとに反共民兵を組織することによって共産党軍の農村宣撫政策に対抗した。
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