はじめに

 いきなり関係のない話から始めるが、詰将棋、特に双玉詰将棋と呼ばれる駒をすべて使った詰将棋のルールはご存知だろうか。「攻め手は自玉の詰みを回避するために王手をし続けなければならない」「受け手は意味のない合駒をしてはならない」などのルールの他に、「盤面は、初期配置から指して現れる盤面でなければならない」というものがある。つまりどう指しても現れる可能性のない盤面は詰将棋として成立しない。
 架空国家に足を踏み入れる際、同じようなことを考えなければならない。およそ500万年間続く人類の歴史の中でどのように人類が行動したとしても成立する可能性のない地球上の風景は、架空国家としても成立し得ないのである。これを理解しないことは多くの架空国家初心者が意味不明な行動をして他の参加者から顰蹙を買い、そのまま何が楽しいのかわからないまま引退となってしまう事象の要因の一つである。架空というのは宙に浮いているというような字を書くが、しかし架空国家は決して歴史の流れという一つの大きな次元から孤立することなく、そこには歴史の流れが厳として存在するのである。
 歴史の中には、一見突拍子もない行動の上で起こったものもある。しかしそのすべてには理由があり、その理由が生まれる背景にもまた理由がある。歴史には無秩序に見えて秩序がある。ジャクソン・ポロックがただ絵具をキャンバスに散らした抽象画が一見無秩序を表現しているように見えて、その絵具の一粒一粒が引力と自由落下に関する物理的な諸法則に従っているように、歴史にも物理法則より遥かに複雑ではあるが一定の諸法則が適用される。僕たち個人の一人ひとりがポロックの絵画の絵具一粒であり、無秩序に見える歴史に秩序だった痕跡を刻んでいる。
 架空国家というのはつまるところどのような作業によって成立しているかというと、人間が可視できる次元からは遠く離れた遥かな高みに存在する歴史のすべてをつかさどる公式に、人類の歴史に適用された定数の代わりにいろいろと異なる変数を代入することによっている。自由落下の公式に含まれる重力加速度gは地球上では9.8メートル毎時2乗であるが、これが月面では6分の1になるというような変換をおこなっているのである。それにより歴史がどう変化し、どのような地図が我々の可視できる地図に現出するかということを我々は見て、その法則のもとで国家を運営するということをおこなうのが架空国家である。

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