架空国家における軍隊・近代編(移植)
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grothendieck57 2022年10月26日(水) 21:23:35履歴
1．陸軍概説
1.1 近代陸軍の歴史—その創始と発展—
近代陸軍*1の先駆けは一般に、フランス革命後にナポレオンが編成したフランス陸軍(大陸軍)とされる。ナポレオンは「国民皆兵」をテーゼとする徴兵制を施行し、当時の欧州では異常な数であった100万の軍隊を保有した。当時の欧州の王公国では、陸軍とは王族の高価な玩具であり、国家の交渉の一手段としてのボードゲームたる戦争に供される駒に過ぎなかった。ナポレオンは三十年戦争以来久しぶりに欧州に本格的な戦争を招来し、プロイセンやオーストリア、ネーデルラント、スウェーデンといった当時の欧州列強を震撼させた。このようなことが可能であったのはフランスがフランス人のフランス人によるフランス人のための国民国家であり、フランス革命によってナショナリズムが発達したことが一要因として挙げられる。大衆を支配したナショナリズムはフランス国民をして国家に殉ずることを栄誉とし、徴兵制にさしたる反感は起きなかった。
ナポレオンの強さの秘訣は徴兵だけでなかった。一般に連隊(Regiment)を最大の戦術単位としていた欧州の陸軍に組織的な変革を起こしたのである。彼は3個から6個連隊をもって師団(Division)*2を編成し、数個師団をもって軍団(Corps)を編成した。ナポレオンの大陸軍は当初6個軍団から成り、各軍団は作戦行動に当たってそれぞれ独立して任務を遂行できる力を持っていた。連隊単位で作戦行動を行っていた欧州の諸国家連合軍はナポレオン軍団に各個撃破され、次々に降伏していった。この師団を基調とする陸軍編制は、19世紀中頃にかけて徐々に普及し、20世紀に入る頃には欧州の軍制を導入した日本や清などの東洋諸国でもスタンダードとなっていた。
ナポレオン戦争がもたらしたものがもう一つある。参謀本部である。この画期的な作戦立案組織はナポレオンに敗れたプロイセンで生まれ、ゲアハルト・フォン・シャルンホルストの指導によって本格的に始動した。参謀本部はプロイセン陸軍において動員・兵站・作戦立案・兵器開発などの軍令の一切を取り仕切り、「ドイツ陸軍の頭脳」と呼ばれた。プロイセン参謀本部、後のドイツ帝国参謀本部は1919年のヴェルサイユ条約でいったん解体される*3が、要するに条約に規定されるほどその存在は大きなものがあったという事である。更にプロイセンはナポレオンの徴兵制を導入・改善して俗に「郷土部隊制度」と呼ばれる徴兵制を確立した。これは全国を幾つかの師管区(師団管区)に分け、それぞれの地域から兵員の徴募を行うというものであり、のちにプロイセン陸軍に軍事行政の範を取った日本陸軍でも採用された。
このようにして成立した近代陸軍は、その最初期の実戦をシュレスヴィヒ=ホルシュタイン戦争や普墺戦争、普仏戦争で経験した。これらの戦争には決まってプロイセン軍の姿があり、欧州最強の名をほしいままにした。プロイセン軍は近代陸軍の創始者であるフランス軍を普仏戦争で打ち負かし、名実ともに欧州最強の陸軍となったのである。このプロイセン陸軍*4の影響を大いに受けたのが日本陸軍であり、軍事顧問となったドイツ参謀本部のメッケル少佐によって日本陸軍は近代陸軍の整備を加速させていく。日本陸軍は未だ前近代的な軍備を保有していた清に打ち勝ち、近代陸軍の優位性を見せつけた。日本陸軍はまた、近代戦の新たな扉を開いた。日露戦争は近代においてはじめての総力戦となり、その各種弾薬消費量は普仏戦争と比較しても一つ桁が違うほどであった。この弾薬の消費、そして機関銃や近代要塞などの新兵器の威力が証明された日露戦争は、第0次世界大戦と呼ばれることもある。機関銃自体は南北戦争で既に登場していたものの、大規模な使用は日露戦争が初であった。また本来は要塞の固定兵器である重砲兵を野戦で使用するという用兵思想は、各国をして重砲兵の運用を大きく変革した。
総力戦という概念は第一次世界大戦において完成を見る。日露戦争の100倍以上の死者を出したこの戦争は同じく総力戦であり、また近代戦の持つ意味をつまびらかにした。王公族のボードゲームに過ぎなかった近世戦と違い、近代戦は国民のナショナリズムを基礎に形成されている。このことは近代において戦争を想像を絶する地獄に叩き込んだ。戦争は職業軍人同士の栄誉ある殺し合いにとどまらず、国民同士の憎悪を煽るものに変質していった。既に日露戦争でその端緒は見えていた。日本人は遼東還付の詔勅から日露戦争まで「臥薪嘗胆」を合言葉に軍拡に励み、ロシア人を「露助」と呼んで蔑んだ。この一点を見ても近代戦の孕む民族主義的な問題が理解できよう。普仏戦争でプロイセンに敗北したフランスでは40年以上もの間対独復讐感情が国民の間に浸透し、既に国民国家同士の全力の殴り合いをする準備は整っていたのである。このようなナショナリズム同士の対立は、近代戦を終わらない戦争へと昇華させた。近代において平和とはまさに次の復讐たる戦争への準備期間に過ぎなかったのである。
第一次世界大戦は数々の新兵器と新戦術を残して終わったが、この総力戦の本質は変化しなかった。フランスとベルギーが中心となったドイツへの「復讐」はヴェルサイユ条約という形で現出し、ドイツ国民の復讐感情を呼び込むこととなった。日本とアメリカの間でもアジア主義(黄色人種主義)と白人至上主義が対立を見せ*5、ウィルソンとレーニンが提唱した民族自決という概念もあいまって戦争は終わる気配を見せなかった。そして総力戦は更に加速する。この国家の限界まで力を振り絞る総力戦で鍵となるのは弾薬と兵器と燃料を供給し続ける工業力であり、前線で倒れゆく兵士を次々に補充する人的余裕*6であり、また効率的な作戦指揮であった。この総力戦を完璧に独力で遂行できたのはアメリカとソビエト連邦の2か国のみであり、これが第二次大戦後の世界の勢力を左右することとなった。
軍事史上の近代戦は、1945年8月6日の広島への原爆投下を契機に収束へと向かう。原子爆弾という兵器の登場は総力戦を絶滅戦争へと進化させ、大国同士の戦争は地球を容易に滅ぼしかねないものとなった。「近代」最後の残滓であった大日本帝国がもはや総力戦を遂行する工業力を喪失し、弓折れ矢尽きて無条件降伏を選択するに至ったとき、悲惨な総力戦の時代は完全に幕を閉じた。戦争は核抑止に起因する国際協調を前提とした限定戦争へと向かい、それに伴ってドクトリンも変化することになる。
1.2 近代陸軍の編制
兵科について
師団の編制
連隊の編制
1.1 近代陸軍の歴史—その創始と発展—
近代陸軍*1の先駆けは一般に、フランス革命後にナポレオンが編成したフランス陸軍(大陸軍)とされる。ナポレオンは「国民皆兵」をテーゼとする徴兵制を施行し、当時の欧州では異常な数であった100万の軍隊を保有した。当時の欧州の王公国では、陸軍とは王族の高価な玩具であり、国家の交渉の一手段としてのボードゲームたる戦争に供される駒に過ぎなかった。ナポレオンは三十年戦争以来久しぶりに欧州に本格的な戦争を招来し、プロイセンやオーストリア、ネーデルラント、スウェーデンといった当時の欧州列強を震撼させた。このようなことが可能であったのはフランスがフランス人のフランス人によるフランス人のための国民国家であり、フランス革命によってナショナリズムが発達したことが一要因として挙げられる。大衆を支配したナショナリズムはフランス国民をして国家に殉ずることを栄誉とし、徴兵制にさしたる反感は起きなかった。
ナポレオンの強さの秘訣は徴兵だけでなかった。一般に連隊(Regiment)を最大の戦術単位としていた欧州の陸軍に組織的な変革を起こしたのである。彼は3個から6個連隊をもって師団(Division)*2を編成し、数個師団をもって軍団(Corps)を編成した。ナポレオンの大陸軍は当初6個軍団から成り、各軍団は作戦行動に当たってそれぞれ独立して任務を遂行できる力を持っていた。連隊単位で作戦行動を行っていた欧州の諸国家連合軍はナポレオン軍団に各個撃破され、次々に降伏していった。この師団を基調とする陸軍編制は、19世紀中頃にかけて徐々に普及し、20世紀に入る頃には欧州の軍制を導入した日本や清などの東洋諸国でもスタンダードとなっていた。
ナポレオン戦争がもたらしたものがもう一つある。参謀本部である。この画期的な作戦立案組織はナポレオンに敗れたプロイセンで生まれ、ゲアハルト・フォン・シャルンホルストの指導によって本格的に始動した。参謀本部はプロイセン陸軍において動員・兵站・作戦立案・兵器開発などの軍令の一切を取り仕切り、「ドイツ陸軍の頭脳」と呼ばれた。プロイセン参謀本部、後のドイツ帝国参謀本部は1919年のヴェルサイユ条約でいったん解体される*3が、要するに条約に規定されるほどその存在は大きなものがあったという事である。更にプロイセンはナポレオンの徴兵制を導入・改善して俗に「郷土部隊制度」と呼ばれる徴兵制を確立した。これは全国を幾つかの師管区(師団管区)に分け、それぞれの地域から兵員の徴募を行うというものであり、のちにプロイセン陸軍に軍事行政の範を取った日本陸軍でも採用された。
このようにして成立した近代陸軍は、その最初期の実戦をシュレスヴィヒ=ホルシュタイン戦争や普墺戦争、普仏戦争で経験した。これらの戦争には決まってプロイセン軍の姿があり、欧州最強の名をほしいままにした。プロイセン軍は近代陸軍の創始者であるフランス軍を普仏戦争で打ち負かし、名実ともに欧州最強の陸軍となったのである。このプロイセン陸軍*4の影響を大いに受けたのが日本陸軍であり、軍事顧問となったドイツ参謀本部のメッケル少佐によって日本陸軍は近代陸軍の整備を加速させていく。日本陸軍は未だ前近代的な軍備を保有していた清に打ち勝ち、近代陸軍の優位性を見せつけた。日本陸軍はまた、近代戦の新たな扉を開いた。日露戦争は近代においてはじめての総力戦となり、その各種弾薬消費量は普仏戦争と比較しても一つ桁が違うほどであった。この弾薬の消費、そして機関銃や近代要塞などの新兵器の威力が証明された日露戦争は、第0次世界大戦と呼ばれることもある。機関銃自体は南北戦争で既に登場していたものの、大規模な使用は日露戦争が初であった。また本来は要塞の固定兵器である重砲兵を野戦で使用するという用兵思想は、各国をして重砲兵の運用を大きく変革した。
総力戦という概念は第一次世界大戦において完成を見る。日露戦争の100倍以上の死者を出したこの戦争は同じく総力戦であり、また近代戦の持つ意味をつまびらかにした。王公族のボードゲームに過ぎなかった近世戦と違い、近代戦は国民のナショナリズムを基礎に形成されている。このことは近代において戦争を想像を絶する地獄に叩き込んだ。戦争は職業軍人同士の栄誉ある殺し合いにとどまらず、国民同士の憎悪を煽るものに変質していった。既に日露戦争でその端緒は見えていた。日本人は遼東還付の詔勅から日露戦争まで「臥薪嘗胆」を合言葉に軍拡に励み、ロシア人を「露助」と呼んで蔑んだ。この一点を見ても近代戦の孕む民族主義的な問題が理解できよう。普仏戦争でプロイセンに敗北したフランスでは40年以上もの間対独復讐感情が国民の間に浸透し、既に国民国家同士の全力の殴り合いをする準備は整っていたのである。このようなナショナリズム同士の対立は、近代戦を終わらない戦争へと昇華させた。近代において平和とはまさに次の復讐たる戦争への準備期間に過ぎなかったのである。
第一次世界大戦は数々の新兵器と新戦術を残して終わったが、この総力戦の本質は変化しなかった。フランスとベルギーが中心となったドイツへの「復讐」はヴェルサイユ条約という形で現出し、ドイツ国民の復讐感情を呼び込むこととなった。日本とアメリカの間でもアジア主義(黄色人種主義)と白人至上主義が対立を見せ*5、ウィルソンとレーニンが提唱した民族自決という概念もあいまって戦争は終わる気配を見せなかった。そして総力戦は更に加速する。この国家の限界まで力を振り絞る総力戦で鍵となるのは弾薬と兵器と燃料を供給し続ける工業力であり、前線で倒れゆく兵士を次々に補充する人的余裕*6であり、また効率的な作戦指揮であった。この総力戦を完璧に独力で遂行できたのはアメリカとソビエト連邦の2か国のみであり、これが第二次大戦後の世界の勢力を左右することとなった。
軍事史上の近代戦は、1945年8月6日の広島への原爆投下を契機に収束へと向かう。原子爆弾という兵器の登場は総力戦を絶滅戦争へと進化させ、大国同士の戦争は地球を容易に滅ぼしかねないものとなった。「近代」最後の残滓であった大日本帝国がもはや総力戦を遂行する工業力を喪失し、弓折れ矢尽きて無条件降伏を選択するに至ったとき、悲惨な総力戦の時代は完全に幕を閉じた。戦争は核抑止に起因する国際協調を前提とした限定戦争へと向かい、それに伴ってドクトリンも変化することになる。
1.2 近代陸軍の編制
兵科について 
陸軍には「兵科」というものが存在する。大学の専修科目と同じで陸軍将校も専門とする兵科が存在し、その兵科の指揮を執るわけである。近代陸軍に於いては俗に「四大兵科」と呼ばれるものが存在し、これは歩兵、騎兵、砲兵、工兵である。この他に第一次世界大戦において登場した機甲科と航空兵科、海兵隊、第二次世界大戦において登場した空挺兵科がある。また、直接戦闘に任じない支援兵科として憲兵科と輜重兵科が存在するほか「兵」という扱いではないが軍医、獣医、軍楽隊などの各部が存在する。以下各兵科の概略を示す(なお、航空兵科は空軍の項で解説するためここでは省略する)。
�機�歩兵
歩兵は現代自衛隊では「普通科」と呼ばれる兵科で、その名の通り小銃を持って戦う一般的に諸君が想像する「兵隊」が所属する兵科である。歩兵科は主に小銃や機関銃などの小火器を扱うが、支援火器として補助的に軽砲*7や歩兵支援用の戦車*8を運用することがある。たかが歩兵と侮る勿れ、歩兵は戦車や火砲が発達した現代戦においても重要な役割を持っている。それは「敵陣を占領する」ことである。幾ら軍の機械化が進もうと敵陣に突入して残敵を掃討し、陣地に自軍の軍旗を掲げることが出来るのは生身の人間しかいない。況や近代戦をや、20世紀の世界において歩兵は非常に重要な兵科であった。電撃戦で有名なドイツもその保有する装甲師団や装甲擲弾兵師団は軍全体に比して僅かであり、大多数が一般の歩兵師団(後に武装擲弾兵師団や国民擲弾兵師団と改称されるが…)であった。第二次世界大戦中、歩兵は各国の主要な戦力となり、徴兵された兵士たちは主に歩兵師団に配属されたが、戦後に軍の職業化と精鋭化が進む中で旧態依然とした、兵隊の足にその機動力を頼る歩兵師団はほぼ淘汰された。大半は自動車化あるいは機械化され、兵隊はトラックや装甲兵員輸送車に乗って移動するようになった。現代の先進国各軍において純粋に兵隊の足に頼る歩兵部隊は、一部の軍に存在する山岳レンジャー部隊のみであろう。
ともあれ、歩兵は長い間軍隊の主力であり、これからもあり続ける。歩兵は複雑な軍事、技術に関する知識を必要としないため徴兵制に最も適している兵科であるといえよう。そのため、「国民皆兵」の時代であった近代においては最も主力たる兵科であった。
�供У格�
騎兵は19世紀から20世紀初頭にかけて多くの軍隊で最も栄誉ある兵科とみなされ、騎兵将校は陸軍の華であった。騎兵の運用に長けたことで知られる軍隊としてはポーランド軍やロシア軍があり、前者はフサリア騎兵、後者はコサック騎兵の名で有名であろう。これら騎兵が主力とした兵器はサーベルであった。英語読みはセイバーである。要するに刃の長い軍刀であり、騎兵はその快速を活かして敵陣に突入してサーベルで戦うことが基本戦術とされていた。しかし小銃の発達や機関銃の発明などでこの戦術は困難になり、代わりに小銃の銃身(バレル)を短縮した騎兵用の小銃が開発されることになる。これをカービン、日本語では騎銃という。現在は単に銃身の短く取り回しやすい小銃を指すことも多い。ともあれこうして騎兵は近代戦に適応していったが、第一次大戦の塹壕戦に敗れ、かつて陸軍の華と謳われた騎兵はその権勢を徐々に衰えさせていった。最終的に第二次世界大戦を最後に騎兵科はその大国の主力たる経歴に終止符を打ち、以後は大半が戦車に取って代わられた。
現在までに行われた中で最後の、そしておそらくは有史最後になるであろう騎兵突撃は1945年3月に中国湖北省の老河口で行われた。老河口にあった中国空軍の飛行場を襲撃した大日本帝国陸軍騎兵第四旅団はその機動性を遺憾なく発揮し、騎兵突撃の掉尾を飾った。
�掘�砲兵
「砲兵は戦場の女神である」という有名な格言がある。この格言を発したのが誰かは定かではないが、一説にはソ連邦の2代目指導者であるヨシフ・スターリンであるとされる。この言葉の通り、砲兵は前線にその身一つで立つ歩兵や騎兵にとって最も頼りになる支援兵科である。総力戦の様相を呈した近代戦争において、砲兵が投射する弾薬の総量が勝敗を決するといっても過言ではない。砲兵は歩兵より遠方に歩兵より多量の火力を、航空機より効率的に投射することが出来、その火力たるやすさまじいものがある。砲兵としては小型の部類に属する口径75mm級の榴弾ですら1kg弱の装薬量があり、これが着弾すれば周辺の兵士はまず無事では済まない。意外に思われるかもしれないが、近代戦においては爆発自体はたいした損害を与えない。砲兵が戦場の女神たる所以は爆発とともに飛び散る弾片にある。爆発の威力によって四散する弾殻は拳銃弾を遥かに超えるスピードで四方八方へと飛び散り、周辺の兵士を殺傷する。
近代陸軍において砲兵といえば野砲、山砲であった。両者ともに口径75mm級の砲を装備し、前者は長射程でありながらも移動に輓馬を必要とするなど機動性に欠け、後者は兵士のみで分割して運べるものの射程は短かった。この2種類が野戦で用いられる火砲であったのだが、日露戦争を契機に口径のインフレが始まった。日本軍は難攻不落の旅順要塞攻略に口径28cmの要塞砲を充当し、これによって火力支援を行った。これだけならまだいいのだが、日本軍はあろうことかこの機動性を著しく欠く28cm砲を野戦に投入し、奉天会戦で大勝利を収めた。これが野戦重砲兵と呼ばれる兵科の始まりである。野戦重砲兵は既存の野戦砲兵を大きく超える10cm、15cm、時には20cm級の火砲を投入し、積極的な火力支援に任じた。これが第一次世界大戦を超えて世界の砲兵を大きく改革し、やがて10cmや15cmの大型榴弾砲が砲兵の主力となっていくことになる。現在では75mm級の野砲はその役割を終え、15cm級の砲に取って代わられている。
�検Ч�兵
現代自衛隊では施設科と呼ばれる兵科である。工兵には様々な役割があるが、その一つは陣地の構築である。歩兵が入る塹壕やその前面に築く鉄条網、トーチカの設置、地雷の埋設などはすべて工兵の仕事である。また軍の先頭に立ち、進撃路を切り開く役割も担っている。基本的に歩兵、騎兵、砲兵などの戦闘兵科は何もない森の中や大河川、更には敵が構築した防御陣地などを単独で突破することができない。ここで登場するのが工兵である。工兵はときに道路の建設や鉄道敷設、橋の建設などの土木工事を行い、軍の進撃を円滑にする。また、敵が構築した防御陣地に対してはこれを破壊すべく爆薬や坑道などを利用して防御陣地の一角を切り崩し、歩兵の進撃路を開く役割がある。このように、工兵は軍隊の行動に不可欠な縁の下の力持ち的な兵科である。
工兵はその任務から細分化されることもある。敵前での突撃路啓開や坑道掘削による敵陣地の破壊などの直接戦闘に任ずる工兵を戦闘工兵、陣地構築や道路敷設などの土木作業に任ずる工兵を建設工兵という。後者に関して特に、鉄道の敷設と運行に特化した工兵を鉄道工兵という。また、これ以外にも例えば日本陸軍には舟艇の運用に特化した船舶工兵がいたし、アメリカ海兵隊には対日侵攻作戦において重要な役割を果たした、飛行場建設に特化したシービー(SeaBee)と呼ばれる建設工兵の独立兵科が存在した。
�后У々段�
戦車は第一次世界大戦においてはじめて登場し、戦間期を通じて各国陸軍に普及し、第二次世界大戦において現在の戦車の原型が形成された比較的新しい兵器である。戦間期において、戦車の運用は主に用途ごとに歩兵科と騎兵科が担っていた。すなわち、歩兵支援を行う鈍足・重装甲の重戦車は歩兵科が取り扱い、偵察や後方撹乱を行う快速・軽装甲の軽戦車は騎兵科が取り扱った。しかしこれら2種類の戦車が30年代から第二次大戦を通じて統合され、中戦車、そして主力戦車(MBT)として一本化されるに至り、各国で機甲兵科の設立が相次いだ。機甲兵科は主に戦車を取り扱う専門の兵科で、その技術的な専門性の高さと精鋭たるべき運用コストの高さから徴兵制には適さない。戦車の発達は、第二次世界大戦後の冷戦期に徴兵制が廃止の機運に向かう一因となった。
戦車の定義は各国によってまちまちであるが、一般には砲を搭載し直接照準射撃が可能なものを指す。ここでいう直接照準射撃とは間接照準射撃の対義語で、目視ないし赤外線探知などの方法によって敵を直接確認して射撃する射撃の方法である。間接照準射撃は主に砲兵に用いられ、観測所の情報による敵の位置に俯仰角と装薬量を定めて射撃する方法である。近代の戦車には大きく分けて軽戦車・中戦車・重戦車・駆逐戦車の4種類が存在し、それぞれが別個の役割を担っていた。現在ではすべて主力戦車(MBT)に統合されていると解釈されることが多いが、必ずしもその限りでない。これに関しては1.3項で解説する。
�此Сな実�/空挺兵科
海兵は元来、海軍の兵士全般を指す言葉である。「海兵隊」が上陸作戦に任ずる諸兵科連合部隊を指すようになったのは太平洋戦争を通じてアメリカ海兵隊(U.S.Marine)が有名になったからであろう。海兵隊のような上陸作戦部隊は一般に上陸用舟艇(小型のものであれば日本の大発動艇、大型のものになるとアメリカのLSTなどが有名である)や水陸両用車を装備して母艦から発進し、上陸に適した土地に強襲上陸を行う。このような兵科が開発された直接の契機は第一次世界大戦のガリポリ上陸戦であり、続いての実戦としては第二次上海事変の杭州上陸作戦や支那事変の大亜湾(バイアス湾)上陸作戦がある。太平洋戦争に入るとこのような上陸作戦は更に数を多くし、末期には米海兵隊による攻撃戦術と日本陸軍による防衛戦術はほぼ完成の域に達した。
空挺兵科は「空中挺進」を略したものである。挺進とは少数兵力で主力部隊に先んじ、偵察や要地占領を行うことで、要するに斥候のことである。空挺戦術は主にソ連で盛んに研究され、輸送には輸送機からのパラシュート降下のほかにグライダーに積載してそれを曳航するなどの方策も取られるようになった。空挺部隊は一般に限られた装備と弾薬で敵の重要拠点に降下し、数で劣る中拠点を維持し続ける必要があるため、軍の中でも精鋭兵が選抜されてこの任務にあたることが多い。上位兵科は一般に歩兵とされるが、上空から各種の砲や戦車を投下することもある。いずれにせよ、第二次大戦期においては大量の物資の空輸は難しかったため、必然的に空挺部隊向けには軽量簡便な兵器が配備されることとなった。
�察ы禄妬鴫�
「輜重輸卒が兵ならば、蝶々、トンボも鳥のうち」という戯れ歌で不名誉にも一般に知られる輜重兵は、軍隊の兵站を担当する兵科である。「二流の将は戦術を語り、一流の将は兵站を語る」と言われる通り兵站とは言わずもがな大事な概念なのであるが、直接戦闘に任じず勲章を得ることも原則としてないことから軍隊の中では軽んじられがちな兵科である。そのような風潮が前述のような戯れ歌と認識を生んだといえよう。輜重兵は弾薬、食糧、被服、武器補充などの戦場におけるあらゆる補給を管轄し、これがなければどんな無敵の部隊であれど戦闘はできない。
輜重兵の行う輸送には主に鉄道が使用されたほか、近代陸軍の前半期には輜重車と呼ばれる、馬に牽かせるタイプの荷車が使用された。また、駄馬の背中に直接荷物を駄載して輸送を行うこともあった。輜重兵の友もまた馬だったのである。しかし、自動車の発明と普及によって馬は徐々に輸送任務から外れ、第二次世界大戦末期の連合軍においては基本的に鉄道線から前線への輸送には自動車が用いられることが多くなっていた。しかし枢軸軍はこの風潮に対応しきれなかった。その理由は石油の不足や基礎的な工業力の不足であり、ドイツ軍の電撃戦を後方で支えたのは馬匹の輜重部隊であったほか、特に日本軍においては輜重兵の自動車化は全くと言っていいほど進まなかった。
�機�歩兵
歩兵は現代自衛隊では「普通科」と呼ばれる兵科で、その名の通り小銃を持って戦う一般的に諸君が想像する「兵隊」が所属する兵科である。歩兵科は主に小銃や機関銃などの小火器を扱うが、支援火器として補助的に軽砲*7や歩兵支援用の戦車*8を運用することがある。たかが歩兵と侮る勿れ、歩兵は戦車や火砲が発達した現代戦においても重要な役割を持っている。それは「敵陣を占領する」ことである。幾ら軍の機械化が進もうと敵陣に突入して残敵を掃討し、陣地に自軍の軍旗を掲げることが出来るのは生身の人間しかいない。況や近代戦をや、20世紀の世界において歩兵は非常に重要な兵科であった。電撃戦で有名なドイツもその保有する装甲師団や装甲擲弾兵師団は軍全体に比して僅かであり、大多数が一般の歩兵師団(後に武装擲弾兵師団や国民擲弾兵師団と改称されるが…)であった。第二次世界大戦中、歩兵は各国の主要な戦力となり、徴兵された兵士たちは主に歩兵師団に配属されたが、戦後に軍の職業化と精鋭化が進む中で旧態依然とした、兵隊の足にその機動力を頼る歩兵師団はほぼ淘汰された。大半は自動車化あるいは機械化され、兵隊はトラックや装甲兵員輸送車に乗って移動するようになった。現代の先進国各軍において純粋に兵隊の足に頼る歩兵部隊は、一部の軍に存在する山岳レンジャー部隊のみであろう。
ともあれ、歩兵は長い間軍隊の主力であり、これからもあり続ける。歩兵は複雑な軍事、技術に関する知識を必要としないため徴兵制に最も適している兵科であるといえよう。そのため、「国民皆兵」の時代であった近代においては最も主力たる兵科であった。
�供У格�
騎兵は19世紀から20世紀初頭にかけて多くの軍隊で最も栄誉ある兵科とみなされ、騎兵将校は陸軍の華であった。騎兵の運用に長けたことで知られる軍隊としてはポーランド軍やロシア軍があり、前者はフサリア騎兵、後者はコサック騎兵の名で有名であろう。これら騎兵が主力とした兵器はサーベルであった。英語読みはセイバーである。要するに刃の長い軍刀であり、騎兵はその快速を活かして敵陣に突入してサーベルで戦うことが基本戦術とされていた。しかし小銃の発達や機関銃の発明などでこの戦術は困難になり、代わりに小銃の銃身(バレル)を短縮した騎兵用の小銃が開発されることになる。これをカービン、日本語では騎銃という。現在は単に銃身の短く取り回しやすい小銃を指すことも多い。ともあれこうして騎兵は近代戦に適応していったが、第一次大戦の塹壕戦に敗れ、かつて陸軍の華と謳われた騎兵はその権勢を徐々に衰えさせていった。最終的に第二次世界大戦を最後に騎兵科はその大国の主力たる経歴に終止符を打ち、以後は大半が戦車に取って代わられた。
現在までに行われた中で最後の、そしておそらくは有史最後になるであろう騎兵突撃は1945年3月に中国湖北省の老河口で行われた。老河口にあった中国空軍の飛行場を襲撃した大日本帝国陸軍騎兵第四旅団はその機動性を遺憾なく発揮し、騎兵突撃の掉尾を飾った。
�掘�砲兵
「砲兵は戦場の女神である」という有名な格言がある。この格言を発したのが誰かは定かではないが、一説にはソ連邦の2代目指導者であるヨシフ・スターリンであるとされる。この言葉の通り、砲兵は前線にその身一つで立つ歩兵や騎兵にとって最も頼りになる支援兵科である。総力戦の様相を呈した近代戦争において、砲兵が投射する弾薬の総量が勝敗を決するといっても過言ではない。砲兵は歩兵より遠方に歩兵より多量の火力を、航空機より効率的に投射することが出来、その火力たるやすさまじいものがある。砲兵としては小型の部類に属する口径75mm級の榴弾ですら1kg弱の装薬量があり、これが着弾すれば周辺の兵士はまず無事では済まない。意外に思われるかもしれないが、近代戦においては爆発自体はたいした損害を与えない。砲兵が戦場の女神たる所以は爆発とともに飛び散る弾片にある。爆発の威力によって四散する弾殻は拳銃弾を遥かに超えるスピードで四方八方へと飛び散り、周辺の兵士を殺傷する。
近代陸軍において砲兵といえば野砲、山砲であった。両者ともに口径75mm級の砲を装備し、前者は長射程でありながらも移動に輓馬を必要とするなど機動性に欠け、後者は兵士のみで分割して運べるものの射程は短かった。この2種類が野戦で用いられる火砲であったのだが、日露戦争を契機に口径のインフレが始まった。日本軍は難攻不落の旅順要塞攻略に口径28cmの要塞砲を充当し、これによって火力支援を行った。これだけならまだいいのだが、日本軍はあろうことかこの機動性を著しく欠く28cm砲を野戦に投入し、奉天会戦で大勝利を収めた。これが野戦重砲兵と呼ばれる兵科の始まりである。野戦重砲兵は既存の野戦砲兵を大きく超える10cm、15cm、時には20cm級の火砲を投入し、積極的な火力支援に任じた。これが第一次世界大戦を超えて世界の砲兵を大きく改革し、やがて10cmや15cmの大型榴弾砲が砲兵の主力となっていくことになる。現在では75mm級の野砲はその役割を終え、15cm級の砲に取って代わられている。
�検Ч�兵
現代自衛隊では施設科と呼ばれる兵科である。工兵には様々な役割があるが、その一つは陣地の構築である。歩兵が入る塹壕やその前面に築く鉄条網、トーチカの設置、地雷の埋設などはすべて工兵の仕事である。また軍の先頭に立ち、進撃路を切り開く役割も担っている。基本的に歩兵、騎兵、砲兵などの戦闘兵科は何もない森の中や大河川、更には敵が構築した防御陣地などを単独で突破することができない。ここで登場するのが工兵である。工兵はときに道路の建設や鉄道敷設、橋の建設などの土木工事を行い、軍の進撃を円滑にする。また、敵が構築した防御陣地に対してはこれを破壊すべく爆薬や坑道などを利用して防御陣地の一角を切り崩し、歩兵の進撃路を開く役割がある。このように、工兵は軍隊の行動に不可欠な縁の下の力持ち的な兵科である。
工兵はその任務から細分化されることもある。敵前での突撃路啓開や坑道掘削による敵陣地の破壊などの直接戦闘に任ずる工兵を戦闘工兵、陣地構築や道路敷設などの土木作業に任ずる工兵を建設工兵という。後者に関して特に、鉄道の敷設と運行に特化した工兵を鉄道工兵という。また、これ以外にも例えば日本陸軍には舟艇の運用に特化した船舶工兵がいたし、アメリカ海兵隊には対日侵攻作戦において重要な役割を果たした、飛行場建設に特化したシービー(SeaBee)と呼ばれる建設工兵の独立兵科が存在した。
�后У々段�
戦車は第一次世界大戦においてはじめて登場し、戦間期を通じて各国陸軍に普及し、第二次世界大戦において現在の戦車の原型が形成された比較的新しい兵器である。戦間期において、戦車の運用は主に用途ごとに歩兵科と騎兵科が担っていた。すなわち、歩兵支援を行う鈍足・重装甲の重戦車は歩兵科が取り扱い、偵察や後方撹乱を行う快速・軽装甲の軽戦車は騎兵科が取り扱った。しかしこれら2種類の戦車が30年代から第二次大戦を通じて統合され、中戦車、そして主力戦車(MBT)として一本化されるに至り、各国で機甲兵科の設立が相次いだ。機甲兵科は主に戦車を取り扱う専門の兵科で、その技術的な専門性の高さと精鋭たるべき運用コストの高さから徴兵制には適さない。戦車の発達は、第二次世界大戦後の冷戦期に徴兵制が廃止の機運に向かう一因となった。
戦車の定義は各国によってまちまちであるが、一般には砲を搭載し直接照準射撃が可能なものを指す。ここでいう直接照準射撃とは間接照準射撃の対義語で、目視ないし赤外線探知などの方法によって敵を直接確認して射撃する射撃の方法である。間接照準射撃は主に砲兵に用いられ、観測所の情報による敵の位置に俯仰角と装薬量を定めて射撃する方法である。近代の戦車には大きく分けて軽戦車・中戦車・重戦車・駆逐戦車の4種類が存在し、それぞれが別個の役割を担っていた。現在ではすべて主力戦車(MBT)に統合されていると解釈されることが多いが、必ずしもその限りでない。これに関しては1.3項で解説する。
�此Сな実�/空挺兵科
海兵は元来、海軍の兵士全般を指す言葉である。「海兵隊」が上陸作戦に任ずる諸兵科連合部隊を指すようになったのは太平洋戦争を通じてアメリカ海兵隊(U.S.Marine)が有名になったからであろう。海兵隊のような上陸作戦部隊は一般に上陸用舟艇(小型のものであれば日本の大発動艇、大型のものになるとアメリカのLSTなどが有名である)や水陸両用車を装備して母艦から発進し、上陸に適した土地に強襲上陸を行う。このような兵科が開発された直接の契機は第一次世界大戦のガリポリ上陸戦であり、続いての実戦としては第二次上海事変の杭州上陸作戦や支那事変の大亜湾(バイアス湾)上陸作戦がある。太平洋戦争に入るとこのような上陸作戦は更に数を多くし、末期には米海兵隊による攻撃戦術と日本陸軍による防衛戦術はほぼ完成の域に達した。
空挺兵科は「空中挺進」を略したものである。挺進とは少数兵力で主力部隊に先んじ、偵察や要地占領を行うことで、要するに斥候のことである。空挺戦術は主にソ連で盛んに研究され、輸送には輸送機からのパラシュート降下のほかにグライダーに積載してそれを曳航するなどの方策も取られるようになった。空挺部隊は一般に限られた装備と弾薬で敵の重要拠点に降下し、数で劣る中拠点を維持し続ける必要があるため、軍の中でも精鋭兵が選抜されてこの任務にあたることが多い。上位兵科は一般に歩兵とされるが、上空から各種の砲や戦車を投下することもある。いずれにせよ、第二次大戦期においては大量の物資の空輸は難しかったため、必然的に空挺部隊向けには軽量簡便な兵器が配備されることとなった。
�察ы禄妬鴫�
「輜重輸卒が兵ならば、蝶々、トンボも鳥のうち」という戯れ歌で不名誉にも一般に知られる輜重兵は、軍隊の兵站を担当する兵科である。「二流の将は戦術を語り、一流の将は兵站を語る」と言われる通り兵站とは言わずもがな大事な概念なのであるが、直接戦闘に任じず勲章を得ることも原則としてないことから軍隊の中では軽んじられがちな兵科である。そのような風潮が前述のような戯れ歌と認識を生んだといえよう。輜重兵は弾薬、食糧、被服、武器補充などの戦場におけるあらゆる補給を管轄し、これがなければどんな無敵の部隊であれど戦闘はできない。
輜重兵の行う輸送には主に鉄道が使用されたほか、近代陸軍の前半期には輜重車と呼ばれる、馬に牽かせるタイプの荷車が使用された。また、駄馬の背中に直接荷物を駄載して輸送を行うこともあった。輜重兵の友もまた馬だったのである。しかし、自動車の発明と普及によって馬は徐々に輸送任務から外れ、第二次世界大戦末期の連合軍においては基本的に鉄道線から前線への輸送には自動車が用いられることが多くなっていた。しかし枢軸軍はこの風潮に対応しきれなかった。その理由は石油の不足や基礎的な工業力の不足であり、ドイツ軍の電撃戦を後方で支えたのは馬匹の輜重部隊であったほか、特に日本軍においては輜重兵の自動車化は全くと言っていいほど進まなかった。
師団の編制
前述の通り、近代陸軍における編制は「師団」が基本である。師団長は基本的に中将が務める。稀に師団を置かない特殊例も存在する(ソビエト連邦の軍団―旅団編制など)が、基本的には師団がすべての基本である。これは、師団が一つの戦略的な戦闘単位として完結しているからであり、早い話が単独で戦地に派遣してもある程度の働きをしてくれる最小単位ということである。一般的な歩兵師団の編制は大まかに「三単位制」と「四単位制」に分けられるが、これは師団内に包含される主力連隊(ここでは歩兵連隊)の数によって定まる。参考として、以下にそれぞれの代表的な編制(三単位制：昭和14年ごろの日本陸軍第23師団の編制/四単位制：昭和12年ごろの日本陸軍第3師団の編制)を示す。
四単位制の師団は近代前期における標準的な師団編制であった。しかし、戦場の多様化によって部隊の分割を円滑に行うことが求められたり、予備兵力を控置しておくことが求められたりし始めたため、より流動的な運用をおこなうべく旅団―連隊―大隊という指揮系統の構造が見直され、三単位制の師団が普及した。これにより師団司令部は連隊に転進命令を下すときに旅団司令部を介す必要がなくなり、また2個連隊(従来の1個旅団)を前線に充当して残りの1個連隊を予備兵力とする、などということが可能になった。なお、イギリス軍などは師団の隷下に3個旅団を置き、実質的な三単位制としている。日本陸軍においては1937年より順次、三単位制師団への改編が施された。
見ての通り、三単位制師団の定員の方が四単位制師団の定員より遥かに少なく、それでいて戦闘能力としてはコンパクトながらも全体的に高く仕上がっている。また、基本的に砲兵の支援火力は同じであるため、1個歩兵連隊あたりの火力の密度が上がったことも指摘される。上記の師団編制では野戦重砲兵旅団が師団に編合されているが、これは帝国陸軍に当時あった4個の野戦重砲兵旅団のうち1つである。当時の帝国陸軍の師団は17個師団が定数であり、約4分の1しか装備していないことになる。編制の改正により、野戦重砲兵旅団は師団から独立したが、これは野戦重砲兵旅団の機動化(自動車化)によるものであり、要するに師団と常に行動を共にせずとも適切な後方からの火力支援が行えるようになったということである。よって、全体的な火力はむしろ向上しているといえよう。
ともかく、全体的に言える点としては、師団とは「歩兵・騎兵または偵察・砲兵・工兵」の諸兵科連合部隊であるということ、それには必ず作戦を遂行するための諸支援兵科(輜重兵、軍医、獣医、化学戦要員etc…)が附属するということである。架空国家においてはこれにさえ留意すれば自由な編制が可能であると思われる。但し、留意すべき点は他にもある。それは運用のしやすさを鑑みるという点である。師団はその時々の戦況に応じ、支隊や戦闘団(独：Kampfgruppe)を編成して迂回や陽動、救援に向かわせることがある。この時に四大兵科から兵力を抽出して諸兵科連合の臨時部隊を編成し、ある程度の独立した戦闘性能を付与するのだが、この抽出時に師団の戦闘能力がなるべく損なわれないようにしなければならない。具体的には、例えば四単位制の歩兵1個連隊に砲兵1個大隊、騎兵1個中隊をつけて支隊を編成するときに、師団に残る砲兵が1個大隊のみであっては困るわけである。このような事態を避けるために通常、歩・騎・砲・工の各兵科はある程度リンクした数の戦闘単位を有する。歩兵が3個連隊いる師団であれば砲兵は3個大隊、4個連隊いる師団であれば4個大隊といった風である。*9
三単位制の師団
四単位制の師団
見ての通り、三単位制師団の定員の方が四単位制師団の定員より遥かに少なく、それでいて戦闘能力としてはコンパクトながらも全体的に高く仕上がっている。また、基本的に砲兵の支援火力は同じであるため、1個歩兵連隊あたりの火力の密度が上がったことも指摘される。上記の師団編制では野戦重砲兵旅団が師団に編合されているが、これは帝国陸軍に当時あった4個の野戦重砲兵旅団のうち1つである。当時の帝国陸軍の師団は17個師団が定数であり、約4分の1しか装備していないことになる。編制の改正により、野戦重砲兵旅団は師団から独立したが、これは野戦重砲兵旅団の機動化(自動車化)によるものであり、要するに師団と常に行動を共にせずとも適切な後方からの火力支援が行えるようになったということである。よって、全体的な火力はむしろ向上しているといえよう。
ともかく、全体的に言える点としては、師団とは「歩兵・騎兵または偵察・砲兵・工兵」の諸兵科連合部隊であるということ、それには必ず作戦を遂行するための諸支援兵科(輜重兵、軍医、獣医、化学戦要員etc…)が附属するということである。架空国家においてはこれにさえ留意すれば自由な編制が可能であると思われる。但し、留意すべき点は他にもある。それは運用のしやすさを鑑みるという点である。師団はその時々の戦況に応じ、支隊や戦闘団(独：Kampfgruppe)を編成して迂回や陽動、救援に向かわせることがある。この時に四大兵科から兵力を抽出して諸兵科連合の臨時部隊を編成し、ある程度の独立した戦闘性能を付与するのだが、この抽出時に師団の戦闘能力がなるべく損なわれないようにしなければならない。具体的には、例えば四単位制の歩兵1個連隊に砲兵1個大隊、騎兵1個中隊をつけて支隊を編成するときに、師団に残る砲兵が1個大隊のみであっては困るわけである。このような事態を避けるために通常、歩・騎・砲・工の各兵科はある程度リンクした数の戦闘単位を有する。歩兵が3個連隊いる師団であれば砲兵は3個大隊、4個連隊いる師団であれば4個大隊といった風である。*9
連隊の編制
先述の師団編制の際、師団の下に置かれる戦闘単位として最も一般的であると説明したのが連隊(旧字体：聯隊)である。この師団や連隊には、単なる編制単位以上の意味がある。例えば西洋においては連隊(Regiment)というのは元々貴族の私兵であり、戦時になればそれらが戦地に赴き主君のために戦った。日本における諸藩が保有する武士団が一番わかりやすい例であろう。その連隊が国民国家を形成する際、国民国家の軍隊の一部になった。連隊の伝統は貴族制のもとで尊重されていったのである。このことからイギリスなど一部の国の連隊には未だ、それぞれ固有の愛称がある。また、西洋の連隊はそれぞれ、元々仕えた貴族の紋章などを基にした独自の「連隊旗」を持った。連隊旗は命より重く、多かれ少なかれ神格化され、これを紛失することは部隊の恥辱であるとされた。日本にもこの伝統は輸入され、日本の連隊は大元帥たる天皇陛下から授かった*10連隊旗を持った。連隊旗は部隊を象徴するものとされ、明治から昭和に至るまで代々引き継がれていった。このため、歴史の古い連隊旗は日清、日露の各戦役や第一次大戦などの過程で損傷し、房だけになったものや兵士の鮮血を受けて緋色に染まったものもあった。しかしこれは敢闘の証であり大きな栄誉であるとされ、「血染めの連隊旗」を持った歩兵第13連隊(熊本)や歩兵第39連隊(姫路)などは精鋭と持て囃された。軍歌「敵は幾万」の2番でも「風に閃く連隊旗 しるしは昇る旭日子よ 旗は飛び来る弾丸に 破るることこそ誉なれ」と歌われている。
架空国家においても、このような伝統を考え、まず「連隊番号は通し番号とすること」即ち同じ名前の連隊は二つと存在しないことに留意し*11、「連隊番号が若い方が歴史が古い」ということを考えながら編成するといいだろう。これに関しては師団も同じであり、どのような軍でも番号の若い師団は精鋭とされることが多い。その代表例が帝国陸軍第2師団(通称「夜襲の仙台師団」)、アメリカ陸軍第1騎兵師団、ロシア地上軍第4親衛戦車師団などである。
話を連隊に戻して、各兵科ごとの連隊の代表的な編制を見ていこう。連隊はいわゆる四大兵科(歩、砲、騎、工)と戦車兵や空挺兵、軍によっては輜重兵や通信兵などの兵科によって編成される。中には鉄道連隊などというものもある。主に19世紀から20世紀にかけての欧州、特にフランスやロシア、プロイセンなどで発達した軍用鉄道網を運用するためのものであり、戦地での鉄道の運行管理や鉄路の修復、時には新線の敷設なども担う。
架空国家においても、このような伝統を考え、まず「連隊番号は通し番号とすること」即ち同じ名前の連隊は二つと存在しないことに留意し*11、「連隊番号が若い方が歴史が古い」ということを考えながら編成するといいだろう。これに関しては師団も同じであり、どのような軍でも番号の若い師団は精鋭とされることが多い。その代表例が帝国陸軍第2師団(通称「夜襲の仙台師団」)、アメリカ陸軍第1騎兵師団、ロシア地上軍第4親衛戦車師団などである。
話を連隊に戻して、各兵科ごとの連隊の代表的な編制を見ていこう。連隊はいわゆる四大兵科(歩、砲、騎、工)と戦車兵や空挺兵、軍によっては輜重兵や通信兵などの兵科によって編成される。中には鉄道連隊などというものもある。主に19世紀から20世紀にかけての欧州、特にフランスやロシア、プロイセンなどで発達した軍用鉄道網を運用するためのものであり、戦地での鉄道の運行管理や鉄路の修復、時には新線の敷設なども担う。
歩兵連隊
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